ココカラオオツチ

震災で生まれた手仕事を
大槌の誇りに

大槌刺し子

ボランティア有志によってスタートし、2013年から認定NPO法人テラ・ルネッサンスが運営。10年間で約200人が取り組みに参加し、約4000万円が支払われた。25人前後の刺し子さんが活動中。東京などでの展示会やワークショップも行う。URL: https://sashiko.jp/

大槌刺し子
大槌刺し子
震災で生まれた手仕事を
大槌の誇りに

大槌刺し子

ボランティア有志によってスタートし、2013年から認定NPO法人テラ・ルネッサンスが運営。10年間で約200人が取り組みに参加し、約4000万円が支払われた。25人前後の刺し子さんが活動中。東京などでの展示会やワークショップも行う。URL: https://sashiko.jp/

ひと針ひと針、布に刺繡をほどこすことで生地を丈夫にし長持ちさせる”刺し子”。東北の地に古くから根付いている手仕事に新しい角度から光を当て、東日本大震災後の大槌で女性たちを支えてきたのが「大槌刺し子」です。震災ボランティアが撒いた刺し子という種は少しずつ成長し、今では大槌の2人の女性が新しい商品の企画やデザインなど事業の中核を担い、「大槌と言えば刺し子」と言われる未来を描いています。

大槌刺し子
「避難生活に希望を」<br />
時間を忘れ、針を動かす<br />

「避難生活に希望を」
時間を忘れ、針を動かす

素朴な風合いの布に太めの糸で縫い込まれた愛らしい模様。花や葉、幾何学模様や日本の伝統文様……手仕事ならではのあたたかみがありながら、規則正しい模様を作り出す縫い目はきっちりと正確に刻まれています。

「この縫い方は一目刺しという技法で、正方形のマス目の縦横斜めをそれぞれ規則的に一目ずつ刺していくと、最後に模様が完成するんです」。そう説明するのは、大槌刺し子でスタッフとして働く佐々木加奈子さん。2011年の秋から「刺し子さん」の1人として、数えきれないほどたくさんの布地に模様を縫ってきました。

大槌刺し子の始まりは、震災から間もない2011年5月。ボランティアの有志5人が「避難生活を送る大槌の女性たちに生きる希望を取り戻してほしい」との思いから、針と糸と布があればどんな場所でも制作できる刺し子で仕事を創り出そうと考え、「大槌復興刺し子プロジェクト」を立ち上げました。

避難所となった体育館の一画、被災を免れた公民館や自宅、大槌町内のさまざまなところで女性たちは刺し子を始めました。津波から月日がたっても見つからない家族のこと、失った仕事のこと、流された家のローンやこれから先のこと……悲しみや不安で押しつぶされそうなたくさんの人の心を刺し子が救ってきました。

「最初は家族も家も助かった自分がやっていいのかな……という気持ちもありましたが、仕事がなくなって何をしていいのか分からず不安な時、針と糸を動かしていると、時間を忘れて無になれました」。もう1人のスタッフの黒澤かおりさんはそう振り返ります。佐々木さんと黒澤さんは20年来の友人同士で子育て仲間。佐々木さんの自宅を訪ねた時にカモメが刺繍してあるふきんを目に留めたのをきっかけに、佐々木さんに誘われて刺し子の仲間入りしました。

「復興」の文字を外し<br />
新たな「大槌刺し子」へ
「復興」の文字を外し<br />
新たな「大槌刺し子」へ

「復興」の文字を外し
新たな「大槌刺し子」へ

売上の一部が女性たちの収入になることを明確に伝えた大槌刺し子の商品は、震災の被災地を支援したいというニーズに合致し、全国の復興支援イベントやネット販売で人気となりました。

ボランティアによる大槌刺し子をより持続的で地域に根ざしたものにするため、被災地で支援活動を展開していた認定NPO法人テラ・ルネッサンスが事業を受け継ぎ、2013年からは現地スタッフとして佐々木さん、黒澤さんら地元の女性たちが運営に加わりました。震災から10年の2021年には名称から「復興」の文字を外し、「大槌刺し子」として新しい一歩を踏み出しました。

刺し子さんに縫ってもらう布に下絵を描いたり、新しい商品のデザインを考えて試作をしたり……、さらに刺し子を施した布をポーチやバッグに仕立てる段取りや完成品の検品まで、二人三脚で制作から販売までを担っています。リモートで2人をサポートする大槌刺し子事業部長の吉田真衣さん(テラ・ルネッサンス理事)は「2人がいることで、刺し子を地元の人たちで運営するという目標が実現できた。刺し子さんからの信頼も厚く心強い」と2人に信頼を寄せています。

刺し子は「心のサプリメント」「生活の一部」「暮らしのリズムを作ってくれるもの」……。刺し子さんたちはさまざまな言葉で自分にとっての刺し子の意味を表現してくれるのだと言う佐々木さん。震災によって生まれた刺し子が今では暮らしの中で欠くことのできないものになっています。

担い手を増やし<br />
大槌の持続可能な仕事に
担い手を増やし<br />
大槌の持続可能な仕事に

担い手を増やし
大槌の持続可能な仕事に

SDGs(持続可能な開発目標)の浸透などの社会的な潮流を追い風に、布を丈夫にし長く大切に使うという刺し子の思想が少しずつ若い世代にも浸透。さらに、大槌刺し子の丁寧な仕事ぶりが知られるようになり、「無印良品」やアパレルブランド「KUON」、子ども服ブランド「ファミリア」などとの共同制作も実現しました。

持続可能な地域づくりという共通する目的を持った大槌町内の企業とも連携し、2022年には大槌ジビエmomijiの鹿革を活用したポーチも商品化。県立大槌高校で生徒に刺し子を体験してもらうなど、町内で刺し子を身近に感じてもらうための活動にも取り組んでいます。

南部鉄器や漆塗り、ホームスパンなど手仕事や工芸がさかんな岩手県。「大槌と言えば刺し子」。そう言われる存在になるのが、黒澤さんと佐々木さん2人の目標です。「そのために全国の人たちはもちろんのこと、地元大槌でも刺し子に興味を持つ人を増やし、持続的な仕事に育てていきたいです」。(2023年2月取材)

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