ジビエのちおこに
大久保将年さん
おおくぼ・まさとし
釜石市出身。市内の高校卒業後、盛岡市の製菓専門学校を経て、料理の道に。ホテルや鉄板焼専門店などで働き、2024年6月に大槌町地域おこし協力隊として着任。釜石で暮らす父と鮎釣りを楽しむなど、自然の中で過ごすのが好き。妻からは「くそ真面目」と言われている。
ジビエのちおこに
大久保将年さん
おおくぼ・まさとし
釜石市出身。市内の高校卒業後、盛岡市の製菓専門学校を経て、料理の道に。ホテルや鉄板焼専門店などで働き、2024年6月に大槌町地域おこし協力隊として着任。釜石で暮らす父と鮎釣りを楽しむなど、自然の中で過ごすのが好き。妻からは「くそ真面目」と言われている。
近年、ジビエとサーモンのまちとしての知名度急上昇中の大槌町。ジビエの生産・加工を手がけるMOMIJI株式会社で地域おこし協力隊として活動する大久保将年さんは「子どものころからお菓子や料理で家族を喜ばせるのが好き」という根っからの料理人。「おもしろそう!」の直感を信じ、MOMIJI で働くことを決めました。休みの日には家族揃ってイベントに参加したり、祭りの神輿を担いだり。大槌暮らしを楽しんでいます。
「いつかは地元に」を実現
盛岡から家族で移住
「同じ山でもどこから入るかで全然違う景色があるし、知らないことばかりでおもしろい。山が近くにある大槌の暮らしは自分にぴったり」。そう話す将年さんは、大槌町のすぐ隣りの釜石市鵜住居町の出身。子どものころから父親に連れられて、春は山菜採りに、秋はきのこ採りにと、山に入り、山の恵みを頂くことが日常でした。叔父が猟師だったことから鹿肉やクマの肉も身近だったと振り返ります。
そんな自然を愛する少年が好きだったものがもう一つ。それはお菓子作りです。「兄弟の誕生日に母親と一緒にケーキを作ると、みんなすごく喜んでくれて。家族の笑顔が見たくて、誰かの誕生日のたびに作っていましたね」。
高校卒業後はお菓子作りを学ぶため、盛岡市内の専門学校へ進学。社会に出てからは主に飲食店の厨房で修業し、料理人の道を進んできました。大槌町出身の奈々子さんと出会ったのはそのころ。結婚後は盛岡で子育てをしながら、2人とも「いつかは地元に戻りたいね」と話していたと言います。
将年さんがMOMIJIを知ったのは、ジビエ事業が始まって間もない2020年ごろ。奈々子さんの同級生の兼澤幸男さんらが、獣害対策のために捕獲した鹿の命を価値のある資源として活かすためジビエの加工会社を立ち上げたことを知り、興味を持ちました。
勤めていた鉄板焼の店では肉を扱う機会も多くあったという将年さん。生き物が肉に加工され、部位ごとに切り分けられた状態で“食材”として扱ってきましたが、「料理の根源である肉ができる過程もきちんと知りたいし、自分もやってみたいと思ったんです。『おもしろそう!』という直感でした」。
お客さんの笑顔がうれしい
ジビエキッチンカー
ちょうどMOMIJIでは、地域おこし協力隊を受け入れており、インターン制度もあったことから、2ヶ月間インターンとしてMOMIJIの仕事を体験。狩猟の現場に同行し、MOMIJIのメンバーが解体した鹿が肉になって出荷される様子を目の当たりにしました。
「野生の鹿は1頭1頭大きさも特徴も違うのに、みんな手際良く処理し解体しているのが印象的でした」と振り返る将年さん。「おもしろそう!」という直感を信じ、大槌町で「ちおこ」の愛称で親しまれている地域おこし協力隊の一員になることを決めました。
地元出身者もちおこも入り混じり若い世代が活躍しているMOMIJIで、先輩隊員らの指導を受けながら、解体の技術を磨く日々が始まりました。
MOMIJIは、ハンターが捕獲した若い鹿をすぐに加工場に搬入して処理することにより、柔らかく臭みのない高品質な肉だけを出荷しているのが特色。東京のホテルやレストランやのシェフからも高く評価されています。その厳しい品質管理の現場で「技術はもちろん、肉の良し悪しを見極める目を養いたい」と意欲を燃やしています。
ちおことしての活動は鹿肉の加工だけにとどまりません。罠猟の免許を取得し、先輩隊員が罠を仕掛ける様子を学んだり、週末にはMOMIJIのキッチンカーでイベント会場などに出店したり。飲食店の厨房とキッチンカーとでは勝手が違い、戸惑うことも多かったと言いますが、「キッチンカーは調理をしながら接客できて、お客さんの反応がダイレクト。リピーターの声を聴くこともできて、とてもやりがいがあります」。
自宅でも鹿肉の研究に余念がありません。「鹿肉は家で料理するのが難しい」という固定概念を払しょくするために、炊飯器に任せておけば確実にジューシーに仕上がる調理方法を検証し、ミンチを使ったハンバーグや餃子で、奈々子さんや長女の光莉(ひかり)ちゃんと一緒に食卓を囲みます。「最近の自信作はビール煮込み。MOMIJIの鹿肉は、肉肉しい味わいがあるのに臭みがなくて、どんな料理法でも美味しく仕上がるんです」。
祭り、釣り、地域行事……
家族で過ごす時間が充実
大槌で暮らし始めて「家族で過ごす時間が増えた」と将年さんと奈々子さんは口を揃えます。初めて家族3人での海釣りも体験し、光莉ちゃんも自然豊かな大槌で元気いっぱい駆け回っています。
大槌を楽しんでいる将年さんの一方、中学時代まで大槌で過ごした奈々子さん。当時は「窮屈に思えて外に出たかった」という地元ですが、大人になって暮らしてみると「大槌は人の気持ちがアツい町。子どものころは『何もない』と思っていたけれど、一度町を出てみたからこそ、大槌の人の優しさや温かさが実感できるのかもしれません」と目を細めます。
将年さんは今年初めて、歴史ある大槌まつりで大槌稲荷神社の神輿の担ぎ手として参加しました。「大槌は祭りの熱気がものすごくて、自分から輪に入ればみんな温かく迎えてくれる。ちおこはそういう場に声を掛けていただく機会が多いのが魅力」と新しい土地での新しい働き方に充実感を感じています。
山、海、まち、それぞれの魅力を満喫する大久保ファミリーの大槌暮らしはまだまだ広がり続けています。
(2024年10月取材)