ココカラオオツチ

ご当地サーモンで
大槌の浜に再びにぎわいを

大槌復光社協同組合

2013年に建設会社など計7社で設立。復興後を見据えた新事業として、2018年に2社で水産部会を発足し、サーモン養殖事業の検討を開始。翌年、桃畑養魚場の整備工事を経て、ギンザケ稚魚の飼育をスタートさせた。桃畑で育てた川育ちのギンザケは「桃畑学園サーモン」として出荷している。

大槌復光社協同組合
大槌復光社協同組合
ご当地サーモンで
大槌の浜に再びにぎわいを

大槌復光社協同組合

2013年に建設会社など計7社で設立。復興後を見据えた新事業として、2018年に2社で水産部会を発足し、サーモン養殖事業の検討を開始。翌年、桃畑養魚場の整備工事を経て、ギンザケ稚魚の飼育をスタートさせた。桃畑で育てた川育ちのギンザケは「桃畑学園サーモン」として出荷している。

東日本大震災からの復興を担ってきた大槌町内の建設業界。新しい町が完成した後も地域の雇用を守り、経済を盛り上げていくため、建設会社などで作る「大槌復光社協同組合」は新しい分野での挑戦を始めました。そして生まれたのが大槌のご当地サーモンです。秋サケやサンマの不漁が続くなか、サーモン養殖で浜に新しい光をもたらそうとしています。

大槌復光社協同組合
「新巻鮭発祥の地」に<br />
新しい産業を

「新巻鮭発祥の地」に
新しい産業を

町の中心部から大槌川に沿って西に進むこと、約15分。緑豊かな森林と田畑に囲まれた桃畑地区で大槌のご当地サーモンの稚魚が飼育されています。ヤマメやイワナなどが生息する清流・大槌川の水を引き込んだ桃畑養魚場でギンザケの飼育が始まったのは2019年。この事業に乗り出したのは、水産業とは無縁の建設会社の集まりである大槌復光社でした。

復興工事の終わりが見え始めていた当時、「大槌に持続的な産業を」との思いから新しい事業への参入の道を模索していた大槌復光社。もともとは民間工事をスムーズに進めるため建設会社や電気工事会社で設立した組織でしたが、その中の2社で「水産部会」を発足することになったのです。

「水揚げされる魚が減って活気を失った浜をもう一度元気にしたい」と立ち上がったのは、組合理事の金﨑拓也さん。長年、建設会社の役員を務める建設土木のプロですが、「魚に関してはまったくの素人だった」と当時を振り返ります。

大槌町は「新巻鮭」発祥の地とも言われ、安土桃山の昔から、秋から冬にかけて獲れるシロザケで栄えた町。魚類の養殖を始めるのであれば、地域に根づいたサケに近い魚種であるサーモンが最適だと金﨑さんら水産部会のメンバーは考えました。

ちょうど同じころ、町役場もサケ科魚類養殖の検討を進めていました。町出身者が役員を務める一般財団法人「漁港漁場漁村総合研究所」の調整と協力を得て、海での養殖のノウハウを持つ大手水産会社・ニッスイのグループ会社「弓ヶ浜水産」との協議を重ね、波が穏やかな船越湾の吉里吉里沖での養殖の実証実験に臨もうとしていたのです。

「岩手大槌サーモン」<br />
「桃畑学園サーモン」次々に
「岩手大槌サーモン」<br />
「桃畑学園サーモン」次々に

「岩手大槌サーモン」
「桃畑学園サーモン」次々に

海面養殖にむけた動きを知った金﨑さんらは、桃畑地区でかつてアユの養魚場として使われていた施設を活用して稚魚を成育できないかと構想し、所有者である町と協議。町の補助を活用して、震災後放置され荒れ果てていた養魚場の改修工事を進め、新たに2人の町民を雇用し、飼育を始めました。

2020年1月、大槌復光社、新おおつち漁協、ニッスイ、弓ヶ浜水産、漁港漁場漁村総研の5団体は協定を結び、ご当地サーモン養殖の事業化にむけて、実証実験のスタートに漕ぎつけました。現在、首都圏や東北、北海道で流通する「岩手大槌サーモン」の始まりです。

復光社の役割は、孵化して間もない5cm弱(5~7グラム)の仔魚を約半年かけて20cm(180~200グラム)まで育て、活魚車で吉里吉里漁港まで輸送すること。海面での飼育は弓ヶ浜水産が手がけます。「最初の年は何の知識もなく、どこから稚魚や餌を調達するのか、どうやって漁港まで魚を運ぶのかも分からなかった」と金﨑さん。日本各地でサーモン養殖に取り組む弓ヶ浜水産などのサポートを受けながら、初年度は2,000尾の稚魚を育て、無事に海面の養殖施設へと送り出すことができました。

大雨による増水やクマによる被害といった事態への対処方法も試行錯誤しながら、2年目からは10万尾以上に規模を拡大。順調に動き出した桃畑地区での稚魚飼育事業でしたが、同時に課題も見えてきました。

自然災害や魚類の病気などのリスクに備えて多めに育てた稚魚の活用です。「海面施設に送り出せない稚魚をどうしたらいいか……」、考えた末に「ものは試し、そのまま桃畑で育ててみよう」。金﨑さんは、海面に行かず養魚場に残った稚魚をそのまま育ててみることにしました。

このアイデアから誕生したのが、川育ちの「桃畑学園サーモン」です。成長したサーモンを刺身で食べた関係者の反応は「これは美味い!」。「海に比べて水温の低い桃畑養魚場でどのように育つのかは未知数で挑戦でしたが、思った以上の大きさになり、自信を持って流通させられるサーモンになりました」。

桃畑学園サーモンは、大槌町観光交流協会の協力のもと、町内を中心に展開。地域の水産加工会社や鮮魚店が刺身や塩鮭、フライなどに加工しているほか、町内の飲食店などにも並んでいます。「海で大きくなった岩手大槌サーモンは脂ののりがよく、桃畑学園サーモンは脂控えめであっさりしているのが特徴。好みや調理方法に合わせて楽しんでもらいたい」と金﨑さんはそれぞれの違いを説明します。

少しずつ地域に浸透<br />
「若者があこがれる仕事に」
少しずつ地域に浸透<br />
「若者があこがれる仕事に」

少しずつ地域に浸透
「若者があこがれる仕事に」

かつては水揚げされる魚が豊富で、養殖の魚を食べる習慣がない人も多かった大槌町ですが、金﨑さんは「段々と養殖のご当地サーモンが町内でも定着してきた」と手応えを感じています。なじみの居酒屋でメニューに並ぶことも増えました。

地域の子どもたちにも地元育ちのサーモンを知ってもらい、さらに大槌の自然環境の豊かさも伝えたい、との思いから、校外学習や見学を受け入れ、エサやり体験会、試食会などの機会を通じて、町民にご当地サーモンのことを伝える機会も積極的に作ってきました。

さらなる規模拡大も計画中のご当地サーモン事業。規模は大きくなっても「大槌の産業を盛り上げて、地域で働く若者をもっと増やしたい」という初心は変わることはありません。「大槌は、活気ある浜が魅力の町。ご当地サーモンによって浜ににぎわいを取り戻し、若い人たちが憧れる大槌の仕事に育てていきたいです」。サーモンを育てることを通して、人材を育て、持続可能な地域をつくる。大槌復光社の挑戦は始まったばかりです。(2022年11月取材)

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