ココカラオオツチ

変化とともに400年
受け継ぎ繋ぐ、大槌の舞

大槌町郷土芸能保存団体連合会

1990年設立。神楽、大神楽、鹿子踊、虎舞、七福神の19団体が現在所属。各種出演依頼の調整と取りまとめ、自主公演の企画・開催の他、支援・助成制度の窓口も担う。広報担当・菊池忠彦さんが感じている連合会の強みは「やはり団結力。それぞれが役割を理解し、一つの目的に向かって自主的に動いているからこそ」。

大槌町郷土芸能保存団体連合会
大槌町郷土芸能保存団体連合会
変化とともに400年
受け継ぎ繋ぐ、大槌の舞

大槌町郷土芸能保存団体連合会

1990年設立。神楽、大神楽、鹿子踊、虎舞、七福神の19団体が現在所属。各種出演依頼の調整と取りまとめ、自主公演の企画・開催の他、支援・助成制度の窓口も担う。広報担当・菊池忠彦さんが感じている連合会の強みは「やはり団結力。それぞれが役割を理解し、一つの目的に向かって自主的に動いているからこそ」。

大槌町の秋を賑やかに彩る「大槌まつり」と「吉里吉里まつり」。その迫力から“飛ぶように走る”とも称される神輿と、町内を練り歩く郷土芸能の勇壮な演舞は、ふるさと・大槌を象徴する光景の一つです。大槌町の郷土芸能は400年の歴史を持ち、当時の人々の思いや文化を現代に伝え続けています。

大槌町郷土芸能保存団体連合会
復興…そして継承へ<br />
奮起し歩む“祭り好き”たち

復興…そして継承へ
奮起し歩む“祭り好き”たち

「大槌町郷土芸能保存団体連合会」は、その文化の保存と継承を目的に、1990年に設立されました。34年目となる現在、神楽、大神楽、鹿子踊、虎舞、七福神の計19団体が名を連ねています。
「祭りへの愛や魂は、代々受け継がれるDNA。大槌町民にとって祭りは、血が滾る特別な一日です」と話すのは、連合会で広報を担当する菊池忠彦さん。小学4年生から「大槌まつり」に参加し続ける生粋の“祭り好き”です。

「昔は、祭りを楽しむために郷土芸能をやる人が多かったんじゃないかな。始めるきっかけも、祭りにかだりたい(参加したい)からという感じ。大きな転機となったのが、東日本大震災でした」
活動拠点や衣装、道具の流失。家族や仲間を失った団体も少なくありません。それでも、全国からの支援や励ましに背中を押され、町民からの「祭りが観たい」という声に奮い立ち…。その年の秋も、大槌町から祭りの響きは失われませんでした。

やがて、大槌町の郷土芸能は、復興への決意と支援の象徴として、県内外への出張公演の依頼が増えていきます。
「『すごい、感動した』と言われる度、意識が変わった。それぞれの団体が、郷土芸能が持つ本当の意味や価値を考え始めたんです」
言葉の端々に熱い思いを滲ませながら、菊池さんは当時を振り返ります。

特に印象深かったのは、研究者や専門家が言った“コミュニティ”という言葉。
「震災の影響で離ればなれになっても、虎舞やるべ!って集まる。それを観に、更に人が集まってくる…。これがコミュニティなら、昔からやってきたぞって。同時に、自分たちが受け継いで守り、次の世代へ繋がなければという決意が生まれました。私たち大人の役目は、まずは環境を整えること。若手や子どもたちに、祭りと郷土芸能を思いきり楽しんでもらうことが一番ですから」

その一環として、2021年から取り組むのが「三陸大槌町 郷土芸能かがり火の舞/冬の舞」の開催です。大槌町観光交流協会と協力し、観光資源としてのPRに加え、各団体の活動機会を増やすことも目的としています。春~秋は「大槌まつり」の舞台となる小鎚神社境内で、冬は三陸花ホテルはまぎくのロビーにて、定期公演を実施。観光客はもちろん、町民からも評判の企画です。
「祭りを中心に一年中、郷土芸能に取り組める。欠かせない企画になりました。『郷土芸能が好きだからやりたい、地元に残って続けたい』という声もあり、身が引き締まります」

町出身者や<br />
移住者らを追い風に
町出身者や<br />
移住者らを追い風に

町出身者や
移住者らを追い風に

「一年中考えているからこそ、一人一人に生まれる思いがある」と語る菊池さん。
今まさに挑むのは“担い手の不足”という課題です。学校との連携や、練習期間・場所の検討、周知の仕方を工夫して敷居を下げる方法も模索中。しきたりの本質を問い、改めて向き合う団体も増えてきました。

中でも鍵となるのは、移住者との関わりです。
進学や就職などを機に、町から移住していった人たちの中には“盆正月より祭りに帰る”人も少なくありません。練習には参加できずとも、演者として祭り当日を盛り上げたいと考える人は、年々増えています。
「練習や準備も含めての祭り…という思いもありますが、それが“今の時代”です」
そう言い切ると、菊池さんは笑顔で続けます。
「時代とともに変化してきたからこその400年。何より、大槌に帰って来てくれるのは嬉しいじゃないですか」

そして、他の地域から移り住んで来るIターン移住者の皆さんも、大槌の郷土芸能を新たな風で繋ぐ存在として注目されています。職場や地域での声かけはもちろん、団体側が積極的な受け入れ体制を作ることで、郷土芸能に加わる人も増えてきました。
その町の文化や人との触れあいを求めているIターン移住者と、ローカルかつ濃いコミュニティである郷土芸能が結びついたのは、菊池さんにとって自然な流れだったそうです。
「しきたりの押し付けではなく、歩み寄りが大切。特に難しいのが、受け継ぐべき“型”があり、自分なりではだめという点です。それでも皆さん、一生懸命で…。『団体の人たちがあたたかくて、居心地がいいから頑張れます』と言ってもらったときは、感動でした」

かつて復興事業で全国から派遣され、苦楽を共にした役所や企業の職員さん。ボランティアを縁に通い続けてくれる方々や、大槌高校“はま留学”の卒業生…。それぞれの故郷へ帰った人たちの多くもまた、祭りと郷土芸能によって、大槌町と繋がり続けています。

生まれ育った若者に、大槌で働き、大槌で生きる選択をしてもらうこと。そして、大槌を選び移住してきた方々に、永く住み続けてもらうこと。第二の故郷であり続けること。
「どれか一つではなく、全てが一緒に走るからこそ意味がある。大槌の郷土芸能は、これからもたくさんの人を繋いでいくと信じています」
一人一人の顔を思い浮かべるように目を細め、菊池さんは力強く腕を組みました。

支援が繋ぐ“今”を<br />
感謝とともに次世代へ
支援が繋ぐ“今”を<br />
感謝とともに次世代へ

支援が繋ぐ“今”を
感謝とともに次世代へ

2024年2月25日、連合会は「大槌町郷土芸能 チャリティ公演」を開催。石川県に多大な被害をもたらした能登半島地震の被災地を支援する取り組みです。「恩返しとお互い様の気持ちを込めて」と銘打った公演に、百数十人もの町民が集まり、会場は超満員。それぞれが東日本大震災から今日までの日々を噛み締め、石川県の被災地へ深く思いを寄せました。
支援を目的とした公演を企画するのは、連合会として初めてのこと。「19団体の結束の強さを、改めて実感した企画でした」と誇らしげに話す菊池さん。
「ありがとう、で終わるのではなく、どう繋いでいくかが大事。今こそ恩返しの時だと思っています。チャリティ公演は第2弾も計画中です」
全ての売上と集まった募金は、かつて支援を受けた日本財団へと託されました。今後、復興の状況に合わせ、能登の祭りや郷土芸能を担う団体へと届けられます。

大槌町に戻った“日常”。東日本大震災の記憶は薄れ、町の中で目にすることも、語られることも少なくなりました。菊池さんが郷土芸能を通して、観光客や移住者の皆さんに発信し続けるのは「全国の皆さんからの支援のお陰で、私たちの“今”がある」こと。
そして次代へ示すのは、必要な変化を恐れない姿勢です。
「例えば、50年後の未来。全ての郷土芸能団体が残っていたら…と、もちろん願っていますが、それはとても難しいこと。いつか来る決断の時に向け、団体という枠組みの根幹にある舞や囃子を残すことを、私たちの代から考えて、次の代へ引き継いでいかなければ。虎舞同士、鹿子踊同士で連携し、共通演目を作るなどの取り組みも進めています。私たちが行き着く最終目標はきっと『大槌の郷土芸能を残すこと』だと思うので。全国の皆さんが繋いでくださった“今”という時間の中で、未来を考え、進み続けていきたいです」
(2024年6月取材)

おおつち暮らしのリアルを配信中!
Instagram Twitter Facebook