ココカラオオツチ

自分の生き方は自分で決める。
地域で生きていくことの価値。

工藤秀佳さん

工藤秀佳さん

くどう・ひでか

札幌市出身。リフォーム会社の埼玉県内の営業所に勤務した後、大槌町地域おこし協力隊1期生として着任。<「害獣」を「まちの財産」に。>を掲げる大槌ジビエソーシャルプロジェクトの一員として、ハンター育成事業などに取り組む。自分で獲った鹿や仲間とつくる野菜をさまざまな調理方法で料理するのが日々の楽しみ。

工藤秀佳さん

捕獲した鹿の命を価値あるものに変え、新たな人の流れを創り出す「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」(OGSP)。その一員として活動する地域おこし協力隊の工藤秀佳さんは、首都圏での2年間の会社員経験を経て、大槌へ移住しました。「地方に暮らすことの良さは、生き方の決定権が自分にあること」と実感を語ります。

工藤秀佳さん
大量廃棄への葛藤、<br />
新天地は大槌

大量廃棄への葛藤、
新天地は大槌

札幌市出身の工藤さんは、北海道の大学で畜産を学んだ後、関東へ。リフォーム会社のさいたま市内の営業所に配属され、営業兼現場監督として社会人生活をスタートさせました。古いものを直しながら長く使ってもらうための仕事だと思い選んだリフォーム業界でしたが、まだ使うことのできる浴槽やキッチンが大量に廃棄されている現実を目の当たりにし「この仕事は私のやりたい仕事ではないかもしれない……」、そんな思いを募らせていきました。

働き始めて2年近く経とうとしていたころ、新しい働き方を模索するように。そして、新天地に決めたのは大槌町。大学1年生のころからのパートナー・大場理幹さんの暮らす土地でした。大槌から通勤圏内である岩手県沿岸部の求人情報を探す中で目に飛び込んできたのが、OGSPのメンバーとして活動する地域おこし協力隊募集の情報。大学時代には畜産を学び、食や肉に興味があった工藤さんは、強い興味を覚えました。

同プロジェクトは、大槌町で農林業の鹿の食害が深刻化する中、被害対策として捕獲した鹿の肉を全国流通させ、鹿肉や革製品、狩猟などを体験するプログラムを通して、大槌を知りつながりを持ってもらおうというものでした。「まだ使えるものを壊して処分する仕事に違和感を感じていたからこそ、それまでは捕獲して捨てていた鹿を活用するという取り組みに魅力を感じました」と振り返ります。

ちおこ活動と狩猟に<br />
充実感を感じる毎日
ちおこ活動と狩猟に<br />
充実感を感じる毎日

ちおこ活動と狩猟に
充実感を感じる毎日

さっそく「お試し地域おこし協力隊」の制度を活用して大槌に滞在した工藤さん。OGSPを構成するMOMIJI株式会社の兼澤幸男さんや株式会社ソーシャル・ネイチャー・ワークス(SNW)の藤原朋さんらからプロジェクトへの思いを聴き、兼澤さんの狩猟に同行。彼らとともに大槌で働くイメージを膨らませていきました。

そして2021年春、工藤さんは大槌町の地域おこし協力隊の第1期生として新しい土地での暮らしをスタートさせました。工藤さんの職場は、鹿肉のプロモーションや「大槌ジビエツーリズム」、「岩手ハンター育成プロジェクト」の企画・運営などを担うSNW。工藤さんは、地域の農林業を守る若手ハンターを増やすプロジェクト、さらに鹿の被害に悩む農家と連携して罠を設置し捕獲する取り組みの立ち上げから実行までを1人で任されました。「自分のような若手でも責任ある仕事を任され、会社のビジョン策定にもかかわることができるのは、小さな町の小さな会社だからこそ」と充実感を感じています。

大槌に来て約半年後には狩猟免許を取得し、猟銃を購入。自らもハンターとしてデビューを果たしました。「実は最初は猟銃を持つことに迷いがあって、ぎりぎりまで悩んだんです」と明かす工藤さん。全国の女性ハンターと知り合い、男性のベテランハンターたちに引けを取らず、協力して獲物を獲り、解体、料理までこなす彼女たちの姿に背中を押され、猟に出ることを決心しました。

11月に猟期が始まり、初めて獲ったのはヤマドリ。猟期内に目標としていた鹿も仕留めることができ、「自分で獲ったからこそ、何歳なのか、雄か雌かも分かるし、愛着が湧く。毎回『これはどうやって料理しよう』と考えながら大事に持って帰ります」と語ります。

地域の中で<br />
自分の名前で生きていく
地域の中で<br />
自分の名前で生きていく

地域の中で
自分の名前で生きていく

狩猟だけでなく、自分が食べるものを自分で確保できる暮らし方を理想としている工藤さん。地域おこし協力隊の仲間とともに耕作放棄地を耕して野菜を作ったり、海釣りや渓流釣り、山菜採りを楽しんだり。休みの日には、趣味のカヌーやスノーボードなど岩手の山・川・海を満喫する日々を送っています。

また、大槌だけでなく岩手県内他地域の協力隊や移住者との交流にも積極的で、同世代の仲間の輪が広がっています。「移住者が新しいことを起こして、そこからイノベーションが起きている地域もあって、そういう事例にワクワクします」と他地域から刺激を受けることも多いそう。

自然とかかわり、大槌、そして岩手で多様な人たちとかかわる中で工藤さんが感じること、それは「都会の人は勤めている会社の名刺を持って生きているけれど、地方には務め先だけでなくいくつもの役割を持って個人の名前で生きてい人がたくさんいる」ということ。仕事をしながら、町内会、PTA、消防団、猟友会、地域の祭りやサークル活動など、さまざまな顔を持ちながら地域の中で暮らしている人たちの姿が工藤さんの地域での生き方のモデルです。「自分のやることに自分で責任を負って、生きたいように生きられること、これから何者にでもなれるんだと思えること、それが地域で生きていくことのおもしろさだと思います」。
(2022年6月取材)

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