旅しながら大槌で暮らす
石川貴子さん
いしかわ・たかこ
大槌町出身。高校卒業後、CADオペレーターとして全国各地の建設工事にかかわった後、2022年フリーランスに。<カメラ×デザイン×建築>をテーマに活動。
https://www.instagram.com/
takographer/
旅しながら大槌で暮らす
石川貴子さん
いしかわ・たかこ
大槌町出身。高校卒業後、CADオペレーターとして全国各地の建設工事にかかわった後、2022年フリーランスに。<カメラ×デザイン×建築>をテーマに活動。
https://www.instagram.com/
takographer/
大槌で暮らし、自由に趣味を楽しみながら、好きなことを仕事にする――そんなライフスタイルを実現している人がいます。石川貴子さんは、建築図面を作成するCADオペレーターとしてスキルを磨きながら、沖縄や東京、北海道、大阪などさまざまな土地で暮らした後に、大槌で自分らしい働き方を創り出すため、新しいスタートを切りました。遠く離れてみたからこそ故郷・大槌の魅力が見えてきました。
「ここに住みたい!」
沖縄移住生活で刺激
大槌町の北部・吉里吉里地区で生まれた石川さんは、休日は同級生と釣りに行ったり、海に潜ったり、大槌の自然を満喫する子ども時代を過ごしました。現在の趣味も旅や釣り、登山、キャンプ……アウトドアが中心で、現在の仕事のひとつである写真を極めたいと思ったのは「写真があることで、趣味の楽しさが何倍にも大きくなる」、そう感じたのがきっかけでした。
高校卒業後、隣町の釜石市に事業所がある鉄骨建築図面を制作する会社に就職。CADオペレーターとして、全国各地の大型施設やアミューズメントパークの建築物の図面を手がけてきました。東京や大阪、北海道などに派遣され、数ヵ月間現地で生活しながら、大規模な建設工事のプロジェクトチームの一員としての仕事の経験を重ねました。
そんな石川さんの転機となったのが、仕事の新人指導のため初めて訪れた沖縄でした。名護市に降り立った途端、「ここに住みたい!」と直感し、出張から戻ってすぐに会社に沖縄への転勤の希望を出しました。翌年願いは叶い、2009年念願の沖縄移住を果たしました。
沖縄では全国から移り住んだ人たちとの出会いが待っていました。「独創的な考え方の人や発想力が豊かな人、自由に自分のやりたいことを形にしている人たちと知り合い、たくさんの刺激を受けました」。
2年間の沖縄生活の途中、故郷・大槌は東日本大震災の津波に襲われました。家族や自宅は無事だったものの、数ヶ月前に沖縄に遊びに来てくれた仲の良い友人や親戚、知人などが犠牲になりました。2012年に帰郷してからもしばらくは「がれきがあった海には近づくことができませんでした」、と振り返ります。
写真で広がった世界
「感覚を活かして働こう」
時間の流れとともに大槌でも少しずつ新しい日常が動き始め、大槌の豊かな自然の美しさを再認識することが増えました。「各地で暮らして色んな場所に行ってみたからこそ、やっぱり大槌が心地いいなと感じるようになりました。ほかの地域を見てきたから分かる地域の良さがあります」。
大槌を拠点に各地に滞在しながらCADオペレーターとしてキャリアを重ねる一方で、沖縄での魅力的な移住者たちとの出会いに背中を押され、自身ももっと自由に生きていきたいと思うようになった石川さん。
その世界を広げてくれたのが写真でした。札幌滞在時にカメラサークルに入ったのをきっかけに、どんどん写真の世界に惹かれていったと言います。子どものころから写真が好きで、フィルムのコンパクトカメラやお下がりの一眼レフで写真を撮っていましたが、カメラサークルで教わったのを機に「本気で写真を勉強したい」と一念発起し、カメラや機材を揃えました。
「その時は『写真を仕事にしよう』と考えていたわけではなく、旅先や地元で『この瞬間を残しておかないともったいない!』と思う美しい風景を残すため、夢中でシャッターを切ってきました」。
もともと好奇心旺盛で新しいことを学ぶのが好きな性格。仙台で開催されている写真の教室に通ったり、SNSでさまざまな作品を見てカメラ好きな人たちと交流したりするうちに、写真を通じたつながりが全国に広がっていきました。
CADオペレーターとして働き始めて15年以上たった2022年、石川さんは再び、人生の転機が近づいているのを直感しました。「自分の感覚を活かして働いてみたい」と会社を辞め、フリーランスとして独立。職業訓練校でデザインを学びながら、カメラマンとしての活動を始めました。
大槌で「仕事は創れる」
決断が仕事を呼び寄せた
すると、知り合いやinstagramに投稿した写真を見た人などから撮影の依頼が舞い込むように。小さな子どものバースデーフォトや七五三など一度きりの成長の記録、地元の吉里吉里海岸の海開きをPRするポスター、大槌の暮らしを伝えるwebサイト……きらきらと光が降り注ぐ大槌の海や山を背にリラックスした子どもたちや家族の明るく自然な表情が印象的な写真ばかりです。
「独立を決断し動いたことで自分の意識も変化したし、決断が仕事を呼び寄せたんだと思います」と迷いのない明るい表情で語ります。石川さんがいつも前向きでいられる理由、それは「どこにいてもまわりの人に恵まれてきたこと」。「やりたいことをやって楽しんで生きている人たちからもらったエネルギーで今の自分ができている」とこれまでの経験を振り返ります。
写真を軸にデザインやCADオペレーターの仕事を組み合わせて働き、時どき旅に出る、自分らしい生き方を手に入れた石川さん。「大槌でも仕事は創れる。大槌で自由に自分の好きなことをして生きていく人がもっと増えてほしい」。そのロールモデルとして一歩ずつ歩んでいます。(2022年12月取材)