ココカラオオツチ

耕作放棄地をよみがえらせ
高齢者を元気に

日本クレソン協会 かねざわクレソンヌ

2018年に活動を開始。クレソンの生産を中心に、東京や盛岡の飲食店での対面販売や産地訪問のツアー受け入れなどにも対応している。クレソンを束にした「クレソンのブーケ」は大槌町ふるさと納税の返礼品に。ネット販売や大槌食材とのセット販売も検討中。
ふるさと納税ページ:https://www.furusato-tax.jp/
product/detail/03461/5022878

日本クレソン協会 かねざわクレソンヌ
日本クレソン協会 かねざわクレソンヌ
耕作放棄地をよみがえらせ
高齢者を元気に

日本クレソン協会 かねざわクレソンヌ

2018年に活動を開始。クレソンの生産を中心に、東京や盛岡の飲食店での対面販売や産地訪問のツアー受け入れなどにも対応している。クレソンを束にした「クレソンのブーケ」は大槌町ふるさと納税の返礼品に。ネット販売や大槌食材とのセット販売も検討中。
ふるさと納税ページ:https://www.furusato-tax.jp/
product/detail/03461/5022878

海や海産物のイメージが強い大槌町ですが、実は町の面積の9割以上が森林で、山あいの集落にはどこか懐かしい味わいのある民家や小さな田畑が並びます。そんなのどかな金澤集落の耕作放棄地を活用しクレソンを栽培しているのが「日本クレソン協会 かねざわクレソンヌ」の4人組。笑い声が絶えないパワフルな彼女たちの活動の原動力は「生まれ育った金澤のお年寄りに元気になってほしい」という強い思いです。

日本クレソン協会 かねざわクレソンヌ
3姉妹と従妹で結成<br />
「まず、やっぺし!」

3姉妹と従妹で結成
「まず、やっぺし!」

「私たち、みんな農家のお嬢さんだからねー」。1人が大きな声で呼びかければ、3人が「そう、そう!」と合いの手を打つ。かねざわクレソンヌの作業現場は明るく元気いっぱい。4人とも口を動かしながらも、作業の手を止めることはありません。

この日は、5月の植え付けに備えてクレソン畑に山からの湧き水を引く水路の整備作業。鉈を振って木の根を伐ったり、大きな石を動かしたり……重労働をものともしません。それもそのはず、クレソンヌの4人――沢山美恵子さん、五日市眞由美さん、小笠原美代子さんの3姉妹と従妹の小原善子さんは、この金澤地区の農家で生まれ育ち、それぞれ結婚して町内の別地区で暮らしながら、金澤に通って田畑を耕してきた農業のベテランなのです。

それまで作ってきた野菜に加えてクレソンの栽培を始めたのは2018年。沢山さんがNPO法人遠野まごころネットの運営に携わる知人から「誰か大槌でクレソンを作る人はいないか」と相談されたのがきっかけでした。

ヨーロッパ原産のクレソンは、そのさわやかな苦みと風味の良さに加えて、βカロテンなどの豊富な栄養価が注目され、国内での人気が上昇。高齢者の生きがいづくりや地域活性化を目指して、耕作放棄地を活用したクレソン栽培に取り組んでいる地域もあるということを知った沢山さん。「まず、やっぺし!」と自分たちで栽培してみようと思い立ちました。

まごころネットのはからいで静岡産のクレソンの試食会が開かれ、そこで食べたクレソンのサラダは、さわやかですっきりとした香りとほど良い苦み、シャキシャキとした食感が絶品。4人は「衝撃的な美味しさだった」と振り返ります。

津波に飲まれ九死に一生<br />
「高齢者を笑顔にしたい」
津波に飲まれ九死に一生<br />
「高齢者を笑顔にしたい」

津波に飲まれ九死に一生
「高齢者を笑顔にしたい」

栽培開始から5年。耕作放棄地となっていた田んぼは水をたたえたクレソン畑に生まれ変わり、栽培面積は3倍に。4人が収穫したクレソンを選別するのは、金澤地区の高齢者の仕事です。作業小屋に集まり、枯れた葉や虫食いのある葉を取り除きます。作業のあいまにおしゃべりをするのも楽しみ。「『クレソンで働いたお金で正月の買い物に行ったんだ』とうれしそうに話してくれるお年寄りもいて。それを聞いた時はクレソン栽培を始めて本当に良かったなと思いました」と沢山さんは目を細めます。

沢山さんが高齢者の生きがいづくりへの思いを深めたのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。義理の両親と近所の人を乗せ、避難場所に向かっていた沢山さんの車は、高台に着く目前で津波に飲みこまれました。奇跡的に全員が九死に一生を得て、沢山さんは「死んだはずの自分が生かされて、生まれ変わった」と語ります。

「大槌の役に立ちたい」との思いから、仮設住宅で暮らす高齢者世帯の見守り活動に参加。家族や住み慣れた家を一瞬にして奪われたお年寄りはひきこもりがちになる人も多く、当初は訪ねても顔も見せてくれなかったり、「何しに来た」と追い返されることも多かったと言います。

それでも見回りを続けるうちに、訪問を楽しみに待つ人も増えてきました。「大槌の町を作ってきてくれたお年寄りが津波ですべて失って元気をなくしているのを見て、大槌をもう一度、みんなが笑って暮らせる町にしなくてはならないと思うようになりました」。

元気をなくしていたのは被災した高齢者だけではありませんでした。金澤地区の高齢者の集まる場となっていた金澤小学校の校庭に仮設住宅が建ったことで、運動や交流の機会が激減し、金澤の高齢者も居場所を失い、元気がなくなっているように見えました。

外部からの復興支援活動の手が届かない山間部にある金澤の高齢者たちのために何かできないか――。そう思っていたところに舞い込んだのが、クレソン栽培でした。

豊かな土と水に育まれた<br />
芳醇な香りと苦み
豊かな土と水に育まれた<br />
芳醇な香りと苦み

豊かな土と水に育まれた
芳醇な香りと苦み

「まず、やっぺし!」から始まったクレソン栽培は思いのほか順調で、最初の年から「思いがけず素晴らしいクレソン」(沢山さん)が収穫できました。台風で畑の一部が崩れる被害を受けながらも、家族らの協力ですぐに復旧。苦労を苦労と思わないのが、クレソンヌのたくましさです。

始めた当初は大槌でクレソンを知らない人も多く、販路拡大には頭を悩ませましたが、さまざまな関係者の協力を得て、首都圏の飲食店などにも流通するようになり、今では「大槌のクレソンじゃないとだめだ」と言うシェフもいるほど。

かねざわクレソンヌの会長を務める小原さんは「広葉樹の葉が堆積してできた豊かな土壌と豊富な水が美味しさの秘訣」と言い、「生のままサラダにして、香りと苦み、シャキシャキした食感を楽しんで」と生食をお勧めします。

もうひとつの美味しさの理由は、手間ひまを惜しまないこと。農薬を使わずに栽培しているため、水田に繁殖した雑草や藻はひとつひとつ手作業で取り除きます。さらに収穫時には電解水も使って洗浄することにより、新鮮でシャキッとした状態を長持ちさせています。

高齢者の居場所づくりと耕作放棄地の活用。日本全国の地域が直面する課題に体当たりで取り組むかねざわクレソンヌ。「クレソンを大槌を代表する特産に育て、町内の耕作放棄地を活用してクレソンを作る人を増やしていきたい」。エネルギーあふれる4人の目はすでに先を見据えています。
(2023年4月取材)

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