大場理幹さん
おおば・さとき
神戸市出身。北海道の大学卒業後、東京大学大学院に進学。半年間、千葉で研究をした後に大槌へ。趣味は、カヤック、釣り、川遊びなど。OGSPでは、ツアーの企画運営のほか、町内外の子どもたちの見学の受け入れなども担当。子どもたちが海や川に親しむ体験の提供なども構想している。
大場理幹さん
おおば・さとき
神戸市出身。北海道の大学卒業後、東京大学大学院に進学。半年間、千葉で研究をした後に大槌へ。趣味は、カヤック、釣り、川遊びなど。OGSPでは、ツアーの企画運営のほか、町内外の子どもたちの見学の受け入れなども担当。子どもたちが海や川に親しむ体験の提供なども構想している。
北上山地を流れる川が太平洋に注ぎ込み、その流域と河口で人々の暮らしが営まれている三陸沿岸地域。日々、大槌の山、川、海に分け入り、研究者、狩猟者、さらにツアーガイドとして活動しているのが大場理幹さんです。資本主義が高度に進んだ消費社会だからこそ、自分が食べるものを自分で手に入れる経験のできる大槌の環境に価値を見出しています。
幼少期から釣り、川遊び
サケの研究のため大槌へ
大槌湾を見下ろす赤浜地区の高台にある東京大学大気海洋研究所・大槌沿岸センター。その博士後期課程に所属する大場さんの研究テーマは、サケ。北海道の大学を卒業後、サケが河川に戻って産卵するメカニズムなどを研究するため、東大大学院に入学し、大槌で研究する道を選びました。
神戸で生まれ育った大場さんですが、祖父も父親も釣りを仕事にするなど、子どものころから釣りや川遊びに親しんできたアウトドア派。さらに北海道では市街地から遠く離れた沿岸部でサケの調査をしていたこともあり、大槌で暮らし始めて不便を感じることはありませんでした。むしろ、海も川も山も全部近くにある大槌は大場さんにとっては宝の山に見えたと言います。
2019年秋に大槌で暮らし始め生活になれたころ、狩猟免許を取得。鳥を撃つ空気銃の所持の許可も取りました。きっかけになったのは、狩猟免許を取った釣り仲間の猟に同行させてもらったことと、モンゴルへの旅でした。モンゴルでは、現地の放牧民と一緒に生活し、羊をと畜して食べる自給自足を体験した大場さんは「自分が食べる肉を自分で調達することができるかもしれない」と狩猟に関心を持つようになっていたのです。
大槌での暮らしを変えた
ハンター兼澤さんとの出会い
大槌で免許を取得し、当初はyoutubeなどを参考にしながら1人でカモを撃ち捌いていた大場さん。そのライフスタイルを変えることになったのが、大槌ジビエソーシャルプロジェクト(OGSP)のメンバーとの出会いでした。2020年秋、研究所の活動の一環で吉里吉里国 のイベントに出展していた時、キッチンカーで鹿肉料理を販売していたOGSPのメンバーと知り合い、すぐさまmomijiのハンターである兼澤幸男さんを紹介してもらいました。
兼澤さんが卓越した射撃技術の持ち主だということは、一度狩猟に同行しただけで一目瞭然でした。大場さんは研究の合間をぬって度々兼澤さんに同行し、鹿や熊を撃てる猟銃の免許を取った後は、“巻狩”と呼ばれる集団での狩猟にも参加するようになりました。
獲った獲物は自分たちで捌き、調理して頂く暮らし。夕食には、自分で獲った鹿やカモの肉、釣ってきた魚、パートナーが栽培している野菜が並びます。「獲って食べることは、自分に生きる力がどこまであるかを試すこと」だと大場さんは言います。「今の社会は、お金を払って誰かにやってもらうことで生活が成り立っている。でも、自分でやってみて、できないことは専門の人にお願いする、その方が感謝も湧くし、生きていく上で矛盾がないと思います」。肉などの食料、水、家……自分で調達するにはどれだけの手間がかかるのかを把握した上で生きていきたい、そんな追求心は研究者としての姿勢とつながるのかもしれません。
大場さんの大槌での生活は、自分に“できること”“できないこと”を明確にしていく経験の積み重ね。“食”の自給と並行して、“住”の自給にも挑戦したいと思案中。知り合いから土地を借り、まずは小屋を建てることを計画しています。「都会はお金を払えば何でも手に入りますが、お金を払わないと何も手に入らない。ここには食料を獲って来られる豊かなフィールドがあり、さらに土地も余っている。どんなことでもできそうな気がします」。ネガティブに捉えられる人口減少や過疎化でさえも、大場さんの目には魅力的な資源として映っています。
地域から必要とされる実感
地元の研究者としての新しい道
兼澤さんと親交を深めるうち、大場さんはOGSPに加入し、狩猟やジビエをテーマにした体験ツアーの企画運営をまかされることになりました。ハンターとしての経験や、三陸の海や山についての知見を活かし、参加者に鹿が生息する山を案内したり、解体作業の一部を体験してもらったり、ガイドとして活動しています。
ハンターになりOGSPに入ったことで、大槌での大場さんの人間関係もどんどん広がっていきました。猟友会、消防団、河川組合……貴重な若手である大場さんはどこへ行ってもひっぱりだこです。「町で関わる人が増えてくると、地域の人たちに必要とされているんだという手応えを感じます」。
地域とのかかわりが増え、地域の声を直接聴く機会が増えたことで、自身のこれからのキャリアの選択肢も広がってきました。それが、地域に根ざし地域コミュニティに入り込む研究者です。「地域の人たちが『もっと自然環境を良くしたい』『昔のように豊かな川にしたい』と思ってもやり方が分からないのは当たり前。一方で、地元の人は僕たち研究者が知らない経験の積み重ねや知見がある。同じ目線で話を聞ける地元の研究者として果たせる役割があるのではないかと感じています」。自分の暮らしを自分の手で創り出している大場さんは、地方の小さな町ならではの新しい研究の形を創り出そうとしています。(2022年7月取材)