支え合い育ち合う
NPO法人 ワーカーズコープ
大槌地域福祉事業所
2012年設立。2016年に開所した地域共生ホームねまれやで、通所介護デイサービス、学童保育ぽこあぽこのほか、菓子工房さくさくでの製造・販売や子ども食堂なども運営している。2022年度からは大槌町から町放課後児童クラブの運営も受託。地域おこし協力隊もメンバーとして活動中。
支え合い育ち合う
NPO法人 ワーカーズコープ
大槌地域福祉事業所
2012年設立。2016年に開所した地域共生ホームねまれやで、通所介護デイサービス、学童保育ぽこあぽこのほか、菓子工房さくさくでの製造・販売や子ども食堂なども運営している。2022年度からは大槌町から町放課後児童クラブの運営も受託。地域おこし協力隊もメンバーとして活動中。
東日本大震災からの復興が始まったばかりの2012年。それまでの大槌ではなじみのなかった“ワーカーズコープ(労働者協同組合)”の活動がスタートしました。当時は町外からの支援者主導で動き出したNPO法人「ワーカーズコープ大槌地域福祉事業所」。今では町内の女性たちが主体となって「地域共生ホームねまれや」を拠点に子どもたちや高齢者の居場所づくりに取り組んでいます。
誰もがくつろげる居場所
地域共生型ホーム
なだらかな山と大槌川に囲まれた住宅地の一画に地域共生ホームねまれやはあります。「ねまる」は、「くつろぐ」を意味する岩手の方言。誰もがゆっくりとくつろげる居場所でありたいという願いを込めて名付けました。
小学生が放課後を過ごす学童保育「ぽこあぽこ」、障がいを持つ子どもたちを見守る日中一時支援、要介護認定を受けた高齢者のためのデイサービス……。そのほかにも、子ども食堂や介護予防のためのサロン、菓子工房の運営など、ねまれやの活動は多岐に渡ります。子どもは子ども、高齢者は高齢者、といったくくりで分けて扱うのではなく、子どもや高齢者、障がいや生きづらさを抱えた人たちが、同じ空間で過ごすことによって、おのずと思いやりや支え合いが生まれる。それが、地域共生型ホームであるねまれやの目指す姿です。
「子どもたちを見守ることでお年寄りが元気になったり、ハンディキャップのある子もない子も一緒にいることで、ともに育ち合ったり……。みんなごちゃまぜの空間であることがねまれやの特徴」。そう語るのは、2016年の開所にむけて奮闘し、現在は所長を務める東梅麻奈美さん。新型コロナウイルス感染症が拡大する以前は、高齢者と子どもたちが同じ室内で工作や料理をしたり、テレビを観たり。高齢者にまざって子どもたちも一緒に介護予防体操をする光景が日常だったと言います。
「自分たちのニーズを仕事に」
震災経て始まった仕事創り
ワーカーズコープは、働く人たちが出資し合い、平等に参画し、話し合いながら事業を運営することを理念とする組織。そのため、社長や役員といった幹部が経営判断を下す会社組織とは異なり、勤め始めたばかりの人もベテランも働く人たちは全員、平等です。
しかし、震災前の大槌にはそのようなフラットな組織はなく、2012年からワーカーズコープ大槌地域福祉事業所で働き始めた東梅さんは、驚きの連続だったと当時を振り返ります。「普通の会社に就職したつもりが、『仕事は自分たちで創るもの』『地域のニーズを仕事にするんだ』などと言われて、最初は何もできずに悶々としていました」と当時の心境を明かします。
震災によってコミュニティの支え合いや行政サービスといった機能が低下した大槌で、失われた機能を補完し、ニーズをすくい上げて仕事を創ることで被災者の自立を目指した支援者。一方で、地域のために働きたいと思いながらも、新しい働き方に戸惑う東梅さんら地域住民。さまざまなアイデアは出てくるものの、なかなか目指す姿が見えないまま、数ヶ月の時が流れました。
そんな硬直状態から動き出すきっかけとなったのは、地域で働きながら子育てをする東梅さん自身のニーズでした。学校が冬休みの期間中、 仕事を休まざるを得ない状況になったのです。
津波で町役場や学校が被災した状況下で、小学生の子どもを預けられる施設は町内にひとつしかありませんでした。また、山あいに建設された仮設住宅も多く「仮設に子どもだけを残しておくのは心配」という声も耳に入ってきました。
「さまざまな個性や特性を持った子どもを安心して預けられる場所が欲しい」。東梅さんはほかのメンバーたちと相談し、さまざまな特徴を持った子どもたちを預かることのできるサービスを思い立ち、手探りで事業をスタートしました。これが学童保育「ぽこあぽこ」の始まりでした。
震災前は病院で事務職として働いていた東梅さん。子どもたちの支援は初めての経験で、不安もあったと言いますが、「事業を始めてみると、『長期休みだけでなく普段の日の放課後も預かってほしい』『土曜日の預け先がなくて困っている』といったお母さんたちからの相談も増え、地域に必要な事業だったんだと実感するようになりました」。
ねまれや誕生。
ゆるくつながる場を目指して
預かる子どもたちの数が増え、ニーズがあったことを確信する一方で、地元採用のメンバーは国の緊急雇用創出事業を財源に雇用されており、その制度が終わる2015年春までに、活動を続けていくための道筋を立てなくてはなりませんでした。
緊急雇用事業の終わりとともに、約半数のメンバーはワーカーズコープ大槌地域福祉事業所を離れることに。しかし、東梅さんたちのもとには、地域の保護者たちから預かった子どもたちがいました。
「私たちでやるしかない」。東梅さんたちは、全国で活動するワーカーズコープからヒントをもらい、地域福祉の先進地の事例などから学ぶ中で、高齢者やハンディキャップのある子どもたちや若者がともに過ごせる“共生型福祉拠点”を大槌に創ろうと決意しました。
そして2016年、念願の地域共生ホームねまれやが誕生。子どもたちの預かりだけでなく、高齢者が日中過ごす通所のデイサービスもスタートし、「ごちゃまぜの空間」が生まれました。
大槌事業所が活動を始めたころは、行政や住民からなかなか理解されないこともありましたが、ねまれやという場ができたことで徐々に利用者は増加、さらに町からの委託事業も増えたことで、今では20名を超えるメンバーが活動しています。自分たち自身のニーズから始まった事業を継続してきたことで、その必要性が少しずつ浸透していったのです。
ねまれやを拠点に地域の介護予防サロンなどを運営する小國都さんは、自分自身が楽しむことを第一に日々、地域の高齢者や子どもたちとふれ合っています。「“教える”“支援する”のではなく、一緒に楽しむことでお年寄りも笑顔になる。毎日の仕事が楽しい」と朗らかに笑います。
藤原幸美さんは子どもたちの見守りを担当。自身の長女の経験からねまれやの持つ可能性を感じていると言います。小学生時代、「ぽこあぽこ」で発達特性のある子どもたちと一緒に過ごした長女は、その経験から理学療法士を目指すように。長女からそう打ち明けられた時、うれしくて涙が止まらなかったという藤原さん。「色んな人たちと過ごした経験が成長させてくれたんだと思います」。
大槌のさまざまな人にとっての居場所となり、成長するきっかけを作ってきたねまれや。子ども食堂の運営やイベントの開催は、地域の人たちの手助けが不可欠です。メンバーだけでなく、地域の力を借りながら、支え合い、運営しています。「私たちだけでできることは限られている」という東梅さん。「復興は終わっても、大変な状況に置かれ生きづらさを感じている人は必ずいる。人と人とがゆるくつながって支え合って生きていく、ねまれやがその接点になれればいいなと思います」。(2022年11月取材)